女性も定年まで働く時代になりました。2024年春、均等法1期生大卒女子もいよいよ定年退職を迎えます。
均等法は結局実効性が伴っていなかったと批判されますが、それでも1期生は様々なことと折り合いをつけながら働く女性の先頭を切って働いてきた世代と言っていいでしょう。
しかしそれは、裏を返せばロールモデルがいなかったということに他なりません。
定年女子はまだまだ少数派です。定年を目の前にして抱く不安に対して一歩先を歩む世代はどのように向き合ったのかを知りたいと思っても、なかなか周囲にそのような人が見当たりません。ならば書籍はどうだろうと探してみます。所謂「定年本」と呼ばれる本は沢山ありますが、どちらかというと男性目線のような気がします。
しかし均等法1期生定年女子のメンタリティは定年男子に近いところがあると思いますので参考にならないという訳でもありません。
そこで、女性が書いたものと男性が書いたものとの2冊の定年本を紹介したいと思います。
「定年が見えてきた女性たちへ」と「老後不安がなくなる定年男子の流儀」です。
定年が見えてきた女性たちへ ~自由に生きる「リ・スタート力」のヒント~
1冊目は女性が書いた本です。
「定年が見えてた女性たちへ~自由に生きる「リ・スタート力」のヒント~」野村浩子 2014年 WAVE出版
著者の野村さんは元日経WOMANの編集長をされていた方です。
この本をいつ読んだかハッキリと覚えていないのですが、私の手元にある本は2014年発行の初版ですので、その頃に読んでいると思います。10年前の段階で自分がなんとなく定年を意識していたのだと改めて思いました。
本書は6章から構成されています。
10年前の本ですが状況は殆ど変わっていないと感じます。
2014年当時、均等法世代は40代後半、会社員として最終コーナーを迎えようとしていますが、身近に同じ職種で定年まで勤めあげた女性の先輩が殆ど見当たらない、そこで、会社員として最終コーナーを走り切った先輩の話を聞いてみようという問題意識からこの本は始まります。
女性の生き方は男性より選択肢が多いように見受けられます。それは男性ほど生活スタイルが固定化されていない、逆に言うと、会社の正規メンバーとして認められていないという側面もあったでしょう。
この本の中には、「総合職として管理職としてバリバリ働いてきた人」、「親の介護と仕事の両立に苦労した人」、「役職定年で給料が激減し、ソフトランディングを模索する人」、「定年を機に新たな活動を始める人」など様々な女性が登場し、自分の歩んできた道が、仕事やお金、家族とのかかわりなどを交えながら語られていきます。
結局人生色々ということになるのでしょうが、自分らしく自由に生きていくためのヒントを示してくれる内容になっています。
老後不安がなくなる定年男子の流儀
2冊目は男性が書いた本です。
「老後不安がなくなる定年男子の流儀」大江英樹 2017年 ビジネス社
この本はふとしたことから図書館で見つけて、定年の半年前ぐらいに読みました。当時定年後の生活について根拠のない不安を抱いていた私に、一つの方向性を示してくれた本となりました。
著者の大江さんは野村証券で定年まで勤めた後、経済コラムニストとして年金や資産運用、老後の生活などの分野で活躍された方です。
*かねてから病気療養中と伝えられていましたが、2024年1月1日、ご逝去されました。ご冥福を心よりお祈り致します。
大江さんは定年退職後、再雇用で半年間働いた後、改めて退職して起業。1~2年は仕事がなかったそうですが、直近では年に100本ほどのコラムを書き、年3~4冊の本を出し、全国各地に講演に飛び回るなどの大活躍ぶりは皆さんご存じの通りです。
本書は5章から構成されています。
定年後の三大不安「お金」、「健康」、「孤独」の問題から始まり、「再雇用」、「転職」、「起業」という3種類の働き方について、ご自身の体験を踏まえながら、実態やノウハウ、求められる能力、メリット、デメリットがわかりやすく語られていきます。
そして、大江さんは、定年後の働き方として、意外とローリスクであることや自由な働き方ができることから起業をすすめています。ローリスクというのはいざとなったら年金があるさと開き直ればいいということですし、自由な働き方というのは自分で全部決めることができるということです。
ブレない企業理念を持つこと、借金をしないこと、規模を拡大しないこと、人脈を作ることなど具体的なアドバイスが語られます。
この本の白眉は第4章のウソ偽りなしの「60歳起業日記」で、定年が視野に入ってくる50代後半から定年退職、再雇用、起業へのご自身の歩みが具体的に語られる部分でしょう。深く考えずに再雇用で働く中で感じた戸惑い、再雇用を辞めて起業に向けて動き出したこと、試行錯誤の中でやりたいこと、企業理念を見出していったことなどが語られていきます。具体性があるし刺激的です。元気を貰えます。何より、自由というのに心惹かれます。
この本のなかでいいなと思った箇所を引用してみましょう。
〇ほんの少しの勇気と思い切りさえあれば、シニア起業は実現不可能なことではない。
〇シニアで起業する苦労というのは、つらいことではなく楽しいこと。夢中になれる苦労なのです。
〇漠然とした不安を持ちながら、無関心であるがゆえにあまり何も考えず、いよいよ定年退職が近づいてきて慌てるという人が実に多い。
〇サラリーマンは定年によって「真の自由」を得ることができる。そして、その自由は決して誰にも渡してはならない。だとすれば、会社を定年で辞めた後に、さらに会社に自由を売り渡すような再雇用で働き続けるべきではない。本当に自由な働き方ができるようになったのだから、それを大切にしよう。
定年後の生活に根拠のない不安を抱いている定年女子の皆さんに勇気を与えてくれる一冊と言えるでしょう。