秋が深まると来年度の働き方について悶々と思い悩む人が出てきます。そんな中、先頃、2人の女性と話をしました。
ひとりは来年の3月で定年退職。その後もう少し働くつもりだけれど、週5日にするか週4日にするか悩んでいるとのこと。
今まで長い間働いてきたという思いもあるし、つい最近2つ年下の同僚が入院して療養に入ったという事件もあって、「今、楽しまないとどうする!」だから「フルタイムは絶対にNO」、かといって週3だと時間を持て余しそうだから、「週4にするつもり」と言っていました。
ところが、その後暫くして、なんとなく周りの人と話をしているうちに、「仕事に不満がある訳ではないし、特にやりたいことがある訳でもないし、やめたくなったらやめたらいいのだし、取り敢えずもう一年は週5日で続けよう」と思うに至ったとのことです。
そう決めたらフルタイムを正当化する理由が幾らでも出て来ます。
「基礎年金が満額になるまでは働こう(彼女は大卒なので40年の満期をまだ満たしていません)」
「働いていたら会社で健康診断を受けることができる」
「毎日通勤すると朝きちんと起きるし、健康にいいよね」等々です。
もうひとりは、定年後1年間働いてきたけれども、来年はキッパリやめると決めたという人です。
理由は「仕事が全く面白くないから」です。もっと言うと「自分の年齢を考えた場合、全然関心が持てないことに時間を使いたくないから」とのことです。
「仕事を続けていればそこそこ収入もあるし、もったいない」と言う人もいたそうですが、「続ける気はない!」とキッパリ、筋が通っています。
二人の話を聞いて思い出したのが、シェイクスピアの「マクベス」と「ハムレット」のセリフです。
マクベスは、第5幕第5場の有名なTomorrow Speech
マクベス夫人の死の知らせを受けた後のマクベスのセリフです。
明日、また明日、また明日と、時は
小きざみな足どりで一日一日を歩み、
ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、
昨日という日はすべて愚かな人間が塵と化す死への道を
照らしてきた。消えろ、消えろ、束の間の灯火!
人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ、
舞台の上でおおげさにみえをきっても
出場が終われば消えてしまう。白痴のしゃべる
物語だ、わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、
意味はなに一つありはしない。―小田島雄志訳
ハムレットは、第3幕第1場のこちらも有名なTo be, or not to be: that is the questionから始まる独白
このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。
どちらがりっぱな生き方か、このまま心のうちに、
暴虐な運命の矢弾をじっと耐えしのぶことか、
それとも寄せくる怒涛の苦難に敢然と立ちむかい、
闘ってそれに終止符をうつことか。死ぬ、眠る、
それだけだ。眠ることによって終止符はうてる、
心の悩みにも、肉体につきまとう
かずかずの苦しみにも。それこそ願ってもない
終わりではないか。死ぬ、眠る、
眠る、おそらくは夢を見る。そこだ、つまずくのは。
この世のわずらいからかろうじてのがれ、
永の眠りにつき、そこでどんな夢を見る?
それがあるからためらうのだ、それを思うから
苦しい人生をいつまでも長びかすのだ。
でなければだれががまんするか、世間の鞭うつ非難、
権力者の無法な行為、おごるものの侮蔑、
さげすまれた恋の痛み、裁判のひきのばし、
役人どもの横柄さ、りっぱな人物が、
くだらぬやつ相手にじっとしのぶ屈辱、
このような重荷をだれががまんするか、この世から
短剣のただ一突きでのがれることができるのに。
つらい人生をうめきながら汗水流して歩むのも、
ただ死後にくるものを恐れるためだ。
死後の世界は未知の国だ、旅立ったものは一人として
もどったためしがない。それで決心がにぶるのだ、
見も知らぬあの世の苦労に飛び込むよりは、
慣れたこの世のわずらいをがまんしようと思うのだ。
このようにもの思う心がわれわれを臆病にする、
このように決意のもって生まれた血の色が
分別の病み蒼ざめた塗料にぬりつぶされる、
そして、生死にかかわるほどの大事業も
そのためにいつしか進むべき道を失い、
行動をおこすにいたらずに終わる―小田島雄志訳
どちらも奥が深いですね。
悪乗りして、マクベス風定年女子の独白
人間60になったからといって急に老け込むわけではない
私はまだまだ若い まだまだ普通に働ける
65になった
それみたことか、まだまだ大丈夫だ そのあたりの若い奴には負けていない
よし、年金を繰り下げよう
70になった ほら、まだまだ大丈夫
やっぱり私は若い 人生100年なら、あと30年もある
と、突然不具合が出て来る 膝が痛い 腰が痛い 思うように歩けない
しまった 騙された
秘境に行ってみたかったのに
スカイダイビングをしてみたかったのに
自然の驚異に包まれ
祖先たちの果たせなかった夢の跡を辿る
もはやそんなことは身体が許さない
60歳から10年も働いてしまった
私の輝かしき10年はどこへいったのだ・・・
まあ人生なんて思うように進まないのは当たり前なのですが・・・
シェイクスピアを読み返すと、人間、全然変わらないなと思えます。
いろいろな意味でとっても面白いです。