早期退職を考えていたけれども、結局、もう少し働くことにしたという人の話を聞きました。
今の自分の手持ち資産、今後の収入と支出を計算して、辞めても大丈夫と見込んでいたのですが、パートナーが転職して、想定以上に年収が減ったこと、最近医療費が嵩んでいることから若干不安になって、早期退職を思い直したそうです。
彼女は50代で、まだまだ若いし、体力もあるし、お金も必要でしょう。
パートナーの収入が減ったのに加え自分の収入も減ってしまうとダブルパンチです。定年まで働けば、少なくとも今の年収は計算できるので、気持ちが揺らぐのはよくわかります。
また、別の人から、こんな話も聞きました。
定年後は旅行三昧で楽しもうと思っていたところ、コロナ禍で4年程おとなしくしていたら、パスポートも切れてしまったし、別に行かなくてもいいかという気になってきたとのこと。
そういうものかもしれません。
お金の問題に関して言うならば、今持っているお金はわかっているので、今後の収支を計算して大まかな将来イメージを掴むことはできるでしょう。
勿論、将来のことですから、不確定要素は多々あります。
例えば今60歳だとして、100歳まで生きるつもりなら、後40年あります。40年前と今を比べたら、世の中これだけ変わっているわけですから、今後も大きく変化すると予想されます。
ですので、不確定な前提の基に、徒に不安がってもしょうがないじゃないですか。それよりも毎日楽しく暮らす方がいいと思いませんか。
それでも不安を感じるならば、例えばお金の面で不安があって、働くことによってその不安を減少させることができるならば、適度に働く方が精神的に安心できると思います。
先程のケースで言うと、想定より収入が減って支出が増えたので、ちょっと待てよという判断になったということでしょう。
結局、決断なのだと思います。そして正解はありません。人それぞれです。
自分が何を優先するのか。
お金なのか、時間なのか、精神的な安心感なのか、自由な生活なのか。
そしてそれを得るために何を犠牲にするのか。
自分の年齢も関係するでしょう。
こういったことの総合的な組み合わせで、時間の制約の中で、満足度を最高にするという問題に帰着するのかもしれません。
しかし、なんとなく思うのは、
お金はなんとかなるということ
定年になったからといって仕事を辞める必要はないこと
嫌なことはやりたくないということ
ですので、仕事をすることによって得られるお金や充実感と、仕事をすることによって失う時間やストレスなどを比較して、楽しいと思える仕事を適度に続けていくのがいいのかなと思います。
例えばひとつの示唆を与えてくれるのが、昨年公開された話題作ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」です。主演の役所広司さんは、この映画で、カンヌ映画祭コンペティション部門で最優秀男優賞を受賞しました。
渋谷のトイレの清掃人(役所広司)の日々が淡々と描かれます。
朝起きて、歯を磨き、植物に水をやって、缶コーヒーを飲んで、好きな音楽を聞きながら仕事に出かける。丁寧に仕事をして、仕事が終われば、銭湯に行って、行きつけの飲み屋で一杯やって、時々バーに行って、古本屋で買った本を読みながら眠りに落ちる。時折事件が起きる。しかし淡々と日々は続いていきます。
これを定年女子の文脈に当てはめると、
朝起きる、ご飯を食べる、仕事に行く、買い物に行く、趣味に勤しむ、ゆったりとした時間を過ごす、運動する、様々な日々のルーティンを行う、そして眠るということが静かに繰り返されていきます。
時々イベントがある、事件が起きる(かもしれない)、嬉しいことが起こる。悲しいことが起こる。
そして時が流れる。淡々と続くようで、決して同じではない。
生きとし生けるものの自然な営みではないでしょうか。