「かもめ食堂」(萩上直子監督、2006年公開)という映画があります。
ヘルシンキで小さな食堂を一人で経営するサチエ(小林聡美)。彼女の店「かもめ食堂」を舞台に、ふとしたことで知り合った2人の日本人旅行者(片桐はいり、もたいまさこ)や店の客が織りなすささやかな日々を描いた、ほのぼのと心温まる映画です。
ほんわかとした空気感が何とも言えない映画ですが、ここではこの映画を「ひとり起業」という観点から考察してみましょう。
映画のかもめ食堂
食堂経営という観点でストーリーを追ってみると
- サチコは店を一人で経営しています。近所の主婦たちが時折店を遠巻きに覗いていますが、客は、全く入っていません。
- ある時一人の青年が入ってきます。始めての客です。彼はコーヒーを注文し、以降、彼はコーヒーが無料という特権を獲得します。
- サチエはヘルシンキの書店でミドリという日本人旅行者と知り合い、やがて彼女が店を手伝うようになります。ミドリはフィンランド風のおにぎりの具や、店の広告掲載を提案しますが、サチエは受け入れません。
- 相変わらず客は入っていません。
- ある時フィンランドの定番メニューであるシナモンロールを焼いたら、匂いに誘われていつも遠巻きに眺めていた主婦たちが入ってきます。
- そして、そこを境に徐々に客が増えていきます。
- そんな時マサコという日本人旅行者が店を訪れ、やがて彼女も店を手伝うようになります。
- 徐々に客も増えていきます。そして、遂に満員の客で賑わう店となったところでラストとなります。
かもめ食堂の経営
経営面を見てみましょう。
店舗経営にはイニシャルコストとランニングコストが掛かります。
イニシャルコスト
店舗の取得費または賃借料、内装外装工事費、設備、機械、什器費、運転資金などの費用で、一般に1000万円程度掛かると言われています。
映画で出てくるお店は北欧風のお洒落な感じで、家賃や什器、設備関係でかなりのお金が掛かっていると思われます。
ランニングコスト
店舗営業に必要な光熱水費、人を雇った場合の人件費、提供する食材費等が掛かります。
最初は一人で経営しているので人件費はゼロです。途中で2人が手伝いに入りますが、給料は発生していないと思われます。
映画の規模(20席程度と思われる。)の店を満席で回転させるならば、そしてランチタイムなど一時に客が入る時間があるならワンオペはしんどいと思います。調理は自分がやるとして、接客担当が一人は欲しいです。
人を雇うと人件費が発生するほか様々な事務作業も発生します。また、一旦雇うと簡単に解雇できないし、そもそも今時は人手不足で人が来てくれません。
メニュー
映画では、コーヒー、シナモンロール、焼き鮭、生姜焼き、とんかつ、から揚げ、おにぎり、酒などが出てきます。
ランチメニュー、カフェメニュー、酒があるから夜もやっているのでしょう。
メニューが増えると仕入れや調理に時間がかかるし、アルコールも各種揃える必要が出てきます。
オペレーションの工夫
定年後のプチ起業は、「ひとり起業」、「初期費用を掛けない」、「固定費を掛けない」が大原則です。
飲食の場合、初期費用と固定費用が大きいというのが最大の難点です。
店舗の経費はやむを得ないとしても、人を雇わず一人で回せるオペレーションにしましょう。
例えば、カウンターのみの10席程度の規模にする。メニューを絞り込む。ランチは一種類にする。食券制やセルフサービス、完全予約制の検討などです。
手元資金
飲食に限らずどんなジャンルでも同じですが、店をオープンさせても直ぐに客は来ません。飲食の場合、イニシャルコストが高額なうえ、賃料や光熱水費などのランニングコストが掛かってくるので、売り上げが立たなくても耐えていける十分な運転資金を手元に準備しないといけません。
成功事例
事例1 近所の立ち飲み屋
近所に立ち飲み屋がオープンしました。10人も入ればいっぱいの店です。椅子も2脚ほどありますが、カウンターのみで、酒とつまみで夜だけ営業しています。夫婦でやっているので、2人オペレーションで人件費は掛かりません。
店も内装に全然お金をかけていなくて、常連もついている感じなので、利益は出ているのでしょう。
事例2 近所のお好み焼き屋
夜だけ女性一人で経営しています。家の一部を店舗にしていて5人程入れば満員というスペースです。自宅なので賃料は掛からないし、逆に経費で落とせるでしょう。自宅のダイニングを店にしたという雰囲気です。毎日常連客がビールを飲みに来ています。お好み焼きにビールでまあまあ回っていると思われます。
ひとり起業での飲食
飲食店の廃業率は1年目で約30%。2年目で約50%、3年目で約70%と言われています。
逆に開業率も高いので、競争が激しいでしょう。客の取り合いになるので常連の獲得と新規の獲得が求められる業界です。
定年後プチ起業の対象としては、ハッキリ言って、手を出すにはリスキーな業界ではないでしょうか。